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2025年8月号 日本製鉄、USスチール買収後の経営の自由度確保について

日本製鉄は141億ドル(約2兆円)を投じてUSスチールの普通株をすべて取得した。これとは別に米政府に発行する黄金株がある。たった一株で重要な意思決定に拒否権を持ついびつな資本構成である。米政府が拒否権を持つ黄金株が適用される項目には、生産と雇用の米国外移転や生産拠点の閉鎖・休止などが含まれる。いずれも製造業の経営の根幹に関わる問題である。また、米政府とは「国家安全保障協定」も結んでいる。日本製鉄によると、協定と黄金株により権利事項のなかに、米政府が」USスチールの取締役1人の選任権を持つことが盛り込まれている。最高経営責任者(CEO)や最高財務責任者(CFO)など経営中枢メンバーを米国籍とすることも定められている。米政府に対する黄金株の発行は民間企業のM&Aにおいては異例といえる。

現在、世界鉄鋼協会が発表した世界粗鋼ランキング(2024年)において、日本製鉄4位の4364万トン USスチール29位の1418万トン 合算すると5782万トンである。上位には、1位の宝武鉄鋼集団(中国)1億3009万トン 2位のアセロールミタル(ルクセンブルク)6500万トン 3位の鞍鋼集団(中国)5955万トンがあります。

6月日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収が完了しました。同社の経営に影響力を残した米政府とも適切な関係を築き、将来の経営の重荷にならないようにすべきであります。M&Aの場合、成功の可否は買収後のPMIが上手くいくがどうかです。PMI(=Post Merger Integration)とは、M&Aが成立した後、統合による効果の最大化を目的として行われる一連のプロセスを意味する用語です。経営統合、業務統合、意識統合の各プロセスを経て初めて、シナジー効果の促進、企業価値の向上が期待できます。日本製鉄もこれからが極めて重要な局面になります。

日本製鉄・橋本英二会長の一問一答では、
「(取締役の過半数を米国籍とする内容もあるが)そもそも全員日本人でやっても海外事業は上手くいかない。日本製鉄をモデルに生産効率や品質管理について自分たちだけで改善してもらう。」
「私が45年前に旧新日鉄に入ったときは世界一の鉄鋼メーカーだった。それが残念ながら順位をどんどん下げていった。個人の思いとして、もう一度世界一に復権する。」
「(日鉄を)成長し続けるDNAを持った会社にしたい。それには意識改革が必要だ。今回、たくさんの人間を米国に投入する。社員一人一人が意識を変えて仕事の仕方をグローバル化する。」
「海外で稼ぎ、それを日本にも還元して研究開発や高付加価値品の製造に磨きをかける。世界本社として日本をよみがえらせることが必要だ。」
「世界一を目指して成長を続けるには2つのことが必要だ。1つ目は社員一人ひとりの意識改革。仕事の仕方を変え、成長を追い求め、現状に満足しないという意識改革が必要となる。
2つ目が企業風土、企業文化だ。成長ありき、挑戦ありき。そのために今日の仕事を見直す。
これまで技術者は国内での仕事で満足していたが、本当に当社の技術が世界一かは国内では試せない。海外で通用するか挑戦する。」
と記者会見で明らかにしています。

であれば、軌道に乗るまで橋本会長が、米国においてUSスチールの再生に陣頭指揮をとることがCEOとしての使命ではないかと考えるがどうだろうか。事業環境が大きく変化したとき、安保協定の実行と経営の自由度とをどう確保して両立するのか注視していきたい。

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